初めての出版

2026/10/30

私は諸君に、このなんとも説明のしやうのない淺草公園の魅力を、出來るだけ完全に理解させるためには、私の知つてゐるかぎりの淺草についての千個の事實を以てするより、私の空想の中に生れた一個の異常な物語を以てした方が、一そう便利であると信ずる。ところで、さういふ物語をするためには私に二つの方法が可能だ。それはその物語を展開させるために必要な一切の背景を――たとへば劇場とか、酒場とか、宿屋などを全く私の空想の偶然に一任してしまふか、或ひはまた、さういふ背景だけは實在のものを借りてくるかである。そして私にとつては、むしろ後者の方が便利のやうに思へる。何故なら、私は經驗から、空想といふものは或る程度まで制御されればされるほど強烈になつて行くといふことを、知つてゐるからである。

斉藤製本コラム

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